曖昧な距離

眼鏡×御堂



タバコをふかしながら誰もいないビルの屋上で、御堂のことを考えていた

何度も体を重ねてきたが、このなんともいえない距離感を感じる

この距離が最初から埋まってくれない…

お互いに「愛してる」の言葉をあまり口に出すことが無いからかも知れない

もしかしたら、もう傷つけたくなくて、曖昧な距離をとっているのか?

失うのがこわいのか…

御堂とは恋人同士じゃないか…

「俺はなんて馬鹿なこと考えているんだ…」
吸っていたタバコの火を消し、仕事に戻った

戻ると、藤田の姿もなく就業時間はとっくに過ぎていた
「佐伯、今までなにやっていたんだ?」

御堂が駆け寄ってくる。
「ただ、考え事していただけですよ」

と目一杯の笑顔を浮かべ答える。

「今日のお前は、変だ。私が送って行くから帰れ」

御堂がいうと克哉は近づき耳元で

「御堂さんがしてくれれば元気になりますよ」

御堂の顔が赤くなっていく…

「社内ではダメだと言っただろう」
克哉は仕方なく御堂のそばから少し離れ、二人で克哉の部屋に戻ったとたん

克哉は、玄関先の廊下で御堂を抱く

あまりに突然の行為に戸惑いながらもいつになく余裕のない表情をみせる克哉に

「克哉…」

言葉が出ない。

しばらくして克哉は我に返り
御堂から離れ

「すまん」
といって奥の窓のほうへ足を向ける

その姿があまりにも寂しそうな背中なので、御堂は思わず後ろから抱きしめる

「御堂…。」

御堂のぬくもりを肌で感じる。
さっきまでの不安が少し和らいだような気がする

「佐伯、一体どうしたんだ?私なら、すぐとなりにいる」

何気ない言葉が距離を縮めていく
愛の言葉では縮まらなかった曖昧な距離を

「御堂さん、ありがとうございます」

といって御堂の手を握り返した
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