本多×克哉「旅に出よう」

それは突然の出来事だった

「なあ、克哉。今度お前の生まれた土地に、いきたい」

本多はただ純粋に俺の生まれた土地にいきたいだけだったのかもしれない…

でも、俺にとって生まれた土地である栃木はあまりいい思い出がない。

「いつかな。」

と笑顔で答える。本多は嬉しそうに、俺の予定まで聞いてきた。

「ちょっとまだわからない」

という曖昧な返事をし続けて1ヶ月が過ぎた。

「なあ、いつがいいか?やっぱり温泉入って卓球だよなあ…」

あまりの本多のしつこさに

「7月の半ば位なら…」

と返事をした。その次の日から、毎日のように本多は本をみたりパソコンで調べたりして二人きりであうときは必ず旅行の話題が出た

これで俺が「やっぱり嫌だ」なんて言えない状況になった。

「なあ、本多。温泉じゃなくていきたいところがあるんだけど…」

俺は前にもらった那須のガイドブックを取り出した。

「那須かあ…俺は克哉の生まれた県内ならどこでもいいぜ。」

本多は、笑顔で答えた。別に温泉にいきたくないわけではないけど、できる限り県内の外れがいいと思っただけだ。

何度か話し合いをして泊まる場所と寄る場所を決めた。しおりも作って…準備って楽しいと正直思った。だけど…行ったら本当に楽しめるかどうか…

本多の前では、正直なろうと決めたのに…

それなのに嫌って言えない俺…

そしてついに当日を迎えた。
かなり大きな台風の影響もあって夜中にすごい雨風で全然寝れなかった。

重いからだを起こし、何とか支度をして本多の到着を待つ。ほぼ予定通りに到着し、用意してくれた車へと乗り込む。

「本多。おはよう」

笑顔で言葉を交わし、目的地へ出発した。

高速で約2時間。本多は俺に気を使ってか…流行りの音楽をかけてくれる。

「台風だっていうのに、あんまり雨風がひどくなくて良かったな」

「ああ」

と作り笑顔で答えた。一時間ほどして栃木に入る。地名もよく知っているようなところばかり通り過ぎる。

俺を気づかってか、栃木の話題は一切出さない。出るのは今取り組んでいる仕事のこととBGMのこと…

目的地近くなって本多は、あるサービスエリアへ入った。

「なあ、お前この旅行…」

胸がびくんとなった。無意識の間につまらなそうな態度をとっていたのか…

「楽しいよ。本多と一緒だから。」

と答えた。本多は俺の両手をつかんで

「本当か?もし嘘ついてたら、この場でキスするぞ」

ここはサービスエリアのど真ん中、雨といえどもそれなりの人の行き来がある。

「嘘、じゃないよ…」
と言った瞬間、本多の唇が重なる。周りにみられてると思うと恥ずかしくて仕方がない。

「本多…もう車に戻ろう」

俺の声に耳を貸さずに、本多の手は俺をつかんだままだ。

「お前は、俺と生まれた土地に来たくなかったんだろ?」

俺は首を横にふる。

本多と栃木に来たくなかったわけじゃなくて…

「俺、栃木にいい思いでがなくて…本多に嫌な思いさせるのが恐くて」

本多はもう一度唇を重ねた。

「俺も克哉の過去を一緒にしょうからさ。俺といい思い出作って行こう」

今度は俺から本多の唇にキスをした。

 

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